とある作家のとある夏の話。



スマートフォンのアラームが鳴り響く。
眠い目を擦りながら、ゆるゆると布団から手を伸ばしてアラームを止めた。
前日の仕事疲れが残る体を引きずるようにして布団から出る。
前日にある程度の準備したおかずをお弁当箱へと詰め込みながら、朝御飯の準備も一緒に進めていく。
自分のお給料ではあまり贅沢は出来ないからと始めたお弁当作り。
最初はお弁当作りも苦戦したものだが、今では工夫が出来るくらいにはお弁当作りにも慣れてきた。
手際良く朝食と一緒にお弁当用の卵焼きを卵焼き用のフライパンで焼いていく。
そしてそれが焼き上がると皿へと移し、適当な大きさに包丁で切る。
切り分けた卵焼きを二個程箸でお弁当箱へと盛ると、残りは朝食として箸で掴み口へと運ぶ。
焼きたてのせいか、とても熱い。
はふはふと口の中で慌てて卵焼きを冷ますと、食器棚からガラスのコップを取り出し冷たいお茶を注ぐ。
そしてコップに口を付けて注いだお茶を一気に飲んだ。

「あっつ…。」

朝から私は何をしてんだか…。
はぁ、と溜息を吐くと部屋にある壁掛け時計へと視線を向ける。
時間は家を出る一時間前。
今からお弁当を冷まして、使った食器を片付けをして家を出る準備をすれば会社には間に合いそうだ。
私は手に持ったガラスのコップをテーブルの上に置くと使った食器を片付け始めた。

* * *

それから家を出る準備を済ませて、家を出ると私は何時も乗る時間の電車に乗り込む。
扉の近くに立ち、鞄からスマートフォンを取り出しメモアプリを起動する。
そして幾つか書き留めてあるメモの一つをタップして開く。
私は趣味で物語を書いていて、こう言った隙間時間に物語を紡いでいくのだ。
昨日の通勤時間で打ち込んだ後の物語をある程度打ち込んだ後、これから物語の主要人物である二人の男の子をどうするかと考える。
そして少し考えた後、ふと電車の窓の外へと視線を移す。
窓の外から見える空は綺麗な青空で、大きな入道雲が空に浮かんでいた。
これから私は会社へと向かう。
でも、こんなに綺麗な空を眺めていると何だか会社へ行くのが馬鹿らしく思えてくる。
毎日朝早い時間に起きて、お弁当作りを頑張って、夜遅い時間に家へと帰れば、クタクタの体を鞭打つようにして家の用事をこなす。
そうしてベットへ入る頃には帰ってきてから二時間くらい経った後なのだ。

「ずる休み…しちゃおうかな…。」

私はポツリ、と呟くと何かが吹っ切れたかのように降りる予定の駅で電車を降りずにその電車に乗り続けた。

* * *

景色は流れ、何時の間にか私は知らない駅で電車を降りていた。
ここは、どこだろう。
比較的都会な場所で住む私だけど、ここは大きなビルもなければコンビニも何もない。
そもそも何時も降りる駅では沢山の人が行き来きしているのに、ここには人っ子一人おらずいるのは私だけ。
私はスマートフォンで会社の電話番号を連絡先アプリで呼び出す。
そして耳に当てて電話すると、電話に出た人に体調が悪いかから休む項を伝えた。
お大事に、と電話の相手に言われてしまって少し心が痛んだ。
でも今から会社に行っても絶対間に合わないし、戻る気もなかった私はそのまま先へと進む。
夏の太陽はとても暑く、私を照らす。
じわじわと暑さが私の体力を奪っていく。
暑い…暑すぎでしょ、今日…。
ハンカチで額の汗を拭けば、見知った男の子達が笑いながら私の横を走っていく。
あの子達は…そんな、まさか。

「…、…なの?」

思わず心当たりの名前を呼ぶ。
すると私の横を通った男の子達は足を止めて、私を見た。
彼らは、あの子達は、私が書く物語に出てくる男の子達にそっくりだったのだ。
思わず名前を呼んでしまったけれど、こうやって立ち止まってくれたってことは…もしかして、名前も同じなのだろうか。

「おねーさん、どうして僕達の名前を知ってるの?」

「何処かで会った事、ある?」

「ごめんなさい、知り合いに似てたものだから…つい。まさか知り合いと同じ名前だとは思わなかったけれど。」

私だってこんな事があるんだと凄く驚いている。
落ち着いた声でこんな事言ってるけれど、心の中では興奮して大騒ぎのお祭り騒ぎだ。

「ん!そか!」

「不思議な事もあるんだね。」

彼らの胸元で見慣れたネックレスが揺れた。
そのネックレスは私が書く物語と同じもので、ますます興奮する。
と言うか、こんな偶然あっても良いものなのか。

「おねーさん、もし一人なら僕達と遊ぼうよ!」

「ちょっと、急にそんなこと言うのは失礼だよ。」

一人の男の子が私に近付き、ニコニコと笑いながら私の手を取った。
もう一人の男の子は慌てて止めに入ってくる。
ああ、こう言う言動や性格も私が書く物語の二人とそっくりだ。
何だか私は嬉しくなって、私は良いよと答えていた。

「やったー!」

「良いの?」

「良いよ、今日は好きなことする日って決めたから。」

私が笑って言えば、一人が両手を上げて喜ぶ。
本当、こういう無邪気な所もそっくりだなぁ…。

* * *

私達はとある駄菓子屋さんで瓶ラムネを買い、三人で瓶ラムネを飲んでいた。
瓶に入ったラムネ何て飲むの何時振りだろう。
私は二人に瓶ラムネの封を開けてあげると、二人は嬉しそうにそれを飲んだ。

「美味しい?」

「しゅわしゅわしてて美味しい!」

「美味しい!」

二人は目をキラキラと輝かせてラムネの瓶を見詰める。
ラムネ、二人とも飲んだ事ないのかな…?
それはそれで可愛いな。

「口に合ったなら良かった。…今日は遊びに誘ってくれて有り難うね。」

「ん!おねーさん、元気なさそうだったから。」

「そう、かな…?」

確かに毎日家を早くに出て、遅い時間に帰ってくるのを繰り返しているせいか疲れは良く感じてるけど…。
初対面の男の子達にもバレてしまうのは不覚だったなぁ。
そんなに顔に出てるのだろうか。

「うん。毎日頑張ってるもんね、お姉さん。」

「え…?」

もう一人がにこりと笑いながら言う。
待って、毎日頑張ってるって何…?
それってどう言う意味なの…?

「毎日お疲れ様、おねーさん。えらい。」

えへへ、と笑いながら一人が私の頭を撫でる。
それはもう全部見透かされている気がして、ぼろりと私の目から大粒の涙が溢れ落ちていく。
誰からも言われた事のないその言葉がずっと欲しくて、やっと貰えた言葉に涙が止まらなかった。

「うっ、うぅ…。」

「大丈夫、大丈夫だよ。…達がずっと一緒にいるよ。」

「何時も僕達のお話書いてくれて有り難う。」

嗚呼、私…君達の正体わかったよ。
気付くの遅くて、ごめんね。
君達は…。

「今日はおねーさん、有り難う。ラムネ、美味しかったよ。」

「明日から、また大変だけど頑張ってね。応援してるよ。」

「うん、有り難う…二人共。」

私はにこりと笑って言えば、二人も嬉しそうににこりと笑う。
そしてその瞬間大きな風が吹く。
その風に私は目を閉じると、その後ゆっくりと目を開いた。
すると何時の間にか二人の姿はなく、私の近くには二人が着けていたネックレスと空になったラムネの瓶が二つ置かれている。
二人は、確かにここに居たんだ。
それを知った私はまたぼろぼろと涙を流す。

「だっ、大丈夫ですか!?」

「あ…えへへ、大丈夫です。」

偶然近くを通りがかった人が驚いた様子で私の元へと駆け寄ってくる。
私は力なく笑えば、空になったラムネの瓶とネックレスをぎゅっと抱き締めた。
これは、とある作家のとある夏の日の話。

...The End

あとがき


この後あとがきを書き換えました(2022.10.10)

夏、って話を書きたくて書いた話。

でも現代の夏を書いても何だかパッとしなくて、少し不思議な感じの夏の話になりました。


作品本編の作中に出てくる男の子二人とは春氏と空だったり。

流石に星の子だと目立つので、現パロの二人かなーと勝手に思ってます(笑)

でもネックレスはアドパスの事を連想させたりもしてる。


そして終わりのシーン。

本当はとある作家のそれからを書くつもりではいたんだけど、上手く言葉が纏まらなくて凄いぶつ切りになってしもうた…。

結局あれからとある作家は転職して、落ち着いた生活を取り戻してると良いなとは思います。


たまにはこう言う夏があってもいい。


2021.07.23


修正・加筆:2020.10.10

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