歌が聴こえる。
月が満月のある日。
僕は一人の女性(ひと)と出会った。
君に唄う星屑
約二百年前に在ったとされる街の遺跡。
そこで僕と彼女は出会う。
その時、彼女は唄を歌っていた。
その歌声はとても細く、今にも消えてしまいそうな声。
僕はもっと良く聞きたい、の一心で彼女に近付く。
だがその気持ちに気を取られすぎたせいで、近くに在った石を蹴ってしまった。
かつん、と石を蹴る音がその場に響けば、彼女に僕の存在を伝えてしまう。
そうなれば最後、彼女から出た歌声はびたりと止まる。
僕を見る眼光が鋭い。
「…誰、」
「あ、あの…。ごめんなさい。別に邪魔するつもりなくて…。」
「…。」
「…貴女が歌って居た、あの唄が素敵で…。」
鋭い眼光が僕を射抜く。
僕はおろおろと狼狽(うろた)えながら、彼女が歌った唄の感想を口にする。
僕が一番感じた事を言ったが、出て来た言葉はありきたりな感想だった。
きっと彼女からしたら嘘臭い、と思っただろうな…。
だがその後に彼女は少し間を空けて口を開く。
「…今の歌は、私の国に伝わる唄だ。」
「…国?」
「そうだ、国だ。私の生まれ育った、国の…な。」
そう言って、何処か寂し気な表情で彼女は笑う。
だが僕の中ではこの時、一度だけ聞いた彼女の国の歌で在るあの唄が僕のお気に入りになった。
* * *
「ねぇ。あの唄、もう一度唄って下さいよ。」
「駄目だ。今日は唄わない。」
そう言って彼女はそっぽを向く。
あれから僕と彼女は初めて出会ったあの遺跡で会う事が増え、今日もこうして彼女とこの遺跡で出会う。
だがあの日以来僕は彼女が歌ったあの唄を聞いていない。
何度かこちらから頼んではみるも、何時も適当な理由で躱わされる。
「私はのら猫の様に気紛れ何だ。今日は歌う気分ではない。」
「何ですかその理由…。何時になったら貴女は歌ってくれるの?」
「さぁ、何時だろうな。」
彼女は楽しげに笑いながら言う。
彼女の笑顔がこれで最後になるとは僕自身も、彼女も誰も気付いていなかったんだ…。
* * *
実はこの時、戦争が勃発していた。
近隣国同士の領土を巡る戦争。
勿論僕の住む国もその戦争に参戦していて、戦争の勃発と同時に僕は避難を命じられる。
群になって団体で避難所へ向かうも、気になる事が一つだけあった。
僕は彼女やあの遺跡が心配で気が気じゃなく、僕はその群の中からこっそりと抜け出す。
そして僕は一直線に彼女と初めて出会った遺跡へと駆け出していく。
息が上がる。
全力で走ったせいか息が乱れ、息が中々元の調子に戻らない。
だがそんな事は気にしてる暇は僕には無く、慌てて遺跡の中へと駆け込む。
「はっ…は、あ…。」
遺跡の内部は彼女と出会ったままの状態だった。
どうやら被害はここまで及ばなかったようだ。
その状態に僕は安堵から胸を撫で下ろすも、それは束の間で僕は当たりを見渡して彼女を探す。
すると遺跡の奥に入った所で彼女の身体が横たわっていた。
「…うそ!」
横たわる彼女の身体に僕は声をあげれば、慌てて彼女の元へと駆け寄る。
そこには腹部を中心に肩や足から血を流す彼女の姿が。
どうやら意識を失っているらしい。
僕は彼女に呼び掛けると同時に彼女の肩を揺らす。
僕の行為に彼女は目を覚ませば、ゆっくりと目が開く。
だがその後直ぐに息を荒くさせれば、力ない瞳が僕を見詰める。
「…何…だ、お前…か。お前…は、無事だったか。はは、逃げるのに…失敗…、してな…このざまだ。」
「喋らないで…!今、人を呼んで来るから…!」
罰が当たったかの様に彼女は苦笑しながら言う。
僕は人を呼ぼうとしてその場を立ち上がろうとすれば、その行為は彼女に止められた。
僕の腕を掴み、小さく首を横に振る彼女。
それは最期の合図で、その意味を理解した僕の瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。
「そんな…!そんなの嫌だよ…!」
「…泣くな、男…だろう?」
呆れたような声色で彼女は言う。
ボロボロと泣く僕を弱々しい手付きで僕の頭へと手を伸ばす。
「そうだな…。お前の…為じゃない…が、歌ってやる。」
そう言って彼女は僕がずっと聞きたかったあの歌を歌う。
だがその歌い方は歌う、よりも口ずさむ、の方が正しいかも知れない。
ゆっくりだが歌が、歌詞が、メロディーが僕の中に流れ込む。
そして一通りの歌を歌い終えた彼女は力尽きたのか動かなくなった。
「…!そんな…嫌だよ。ねぇ、起きてよ…。」
* * *
君は笑う。
最期の最期にやりきったような、嬉しそうな笑みを浮かべて。
この戦争の中で、君は笑っている。
誰がこんな戦争を生み出したんだろう。
にんげん?
それとも鉄屑から生まれたぶき?
それとも…?
星は輝く。
こんな薄暗い戦争の中でも星の輝きは絶えない。
僕はあの歌をを心に留めて、願うように僕は彼女が歌った歌を歌った。
...The End
月が満月のある日。
僕は一人の女性(ひと)と出会った。
君に唄う星屑
約二百年前に在ったとされる街の遺跡。
そこで僕と彼女は出会う。
その時、彼女は唄を歌っていた。
その歌声はとても細く、今にも消えてしまいそうな声。
僕はもっと良く聞きたい、の一心で彼女に近付く。
だがその気持ちに気を取られすぎたせいで、近くに在った石を蹴ってしまった。
かつん、と石を蹴る音がその場に響けば、彼女に僕の存在を伝えてしまう。
そうなれば最後、彼女から出た歌声はびたりと止まる。
僕を見る眼光が鋭い。
「…誰、」
「あ、あの…。ごめんなさい。別に邪魔するつもりなくて…。」
「…。」
「…貴女が歌って居た、あの唄が素敵で…。」
鋭い眼光が僕を射抜く。
僕はおろおろと狼狽(うろた)えながら、彼女が歌った唄の感想を口にする。
僕が一番感じた事を言ったが、出て来た言葉はありきたりな感想だった。
きっと彼女からしたら嘘臭い、と思っただろうな…。
だがその後に彼女は少し間を空けて口を開く。
「…今の歌は、私の国に伝わる唄だ。」
「…国?」
「そうだ、国だ。私の生まれ育った、国の…な。」
そう言って、何処か寂し気な表情で彼女は笑う。
だが僕の中ではこの時、一度だけ聞いた彼女の国の歌で在るあの唄が僕のお気に入りになった。
* * *
「ねぇ。あの唄、もう一度唄って下さいよ。」
「駄目だ。今日は唄わない。」
そう言って彼女はそっぽを向く。
あれから僕と彼女は初めて出会ったあの遺跡で会う事が増え、今日もこうして彼女とこの遺跡で出会う。
だがあの日以来僕は彼女が歌ったあの唄を聞いていない。
何度かこちらから頼んではみるも、何時も適当な理由で躱わされる。
「私はのら猫の様に気紛れ何だ。今日は歌う気分ではない。」
「何ですかその理由…。何時になったら貴女は歌ってくれるの?」
「さぁ、何時だろうな。」
彼女は楽しげに笑いながら言う。
彼女の笑顔がこれで最後になるとは僕自身も、彼女も誰も気付いていなかったんだ…。
* * *
実はこの時、戦争が勃発していた。
近隣国同士の領土を巡る戦争。
勿論僕の住む国もその戦争に参戦していて、戦争の勃発と同時に僕は避難を命じられる。
群になって団体で避難所へ向かうも、気になる事が一つだけあった。
僕は彼女やあの遺跡が心配で気が気じゃなく、僕はその群の中からこっそりと抜け出す。
そして僕は一直線に彼女と初めて出会った遺跡へと駆け出していく。
息が上がる。
全力で走ったせいか息が乱れ、息が中々元の調子に戻らない。
だがそんな事は気にしてる暇は僕には無く、慌てて遺跡の中へと駆け込む。
「はっ…は、あ…。」
遺跡の内部は彼女と出会ったままの状態だった。
どうやら被害はここまで及ばなかったようだ。
その状態に僕は安堵から胸を撫で下ろすも、それは束の間で僕は当たりを見渡して彼女を探す。
すると遺跡の奥に入った所で彼女の身体が横たわっていた。
「…うそ!」
横たわる彼女の身体に僕は声をあげれば、慌てて彼女の元へと駆け寄る。
そこには腹部を中心に肩や足から血を流す彼女の姿が。
どうやら意識を失っているらしい。
僕は彼女に呼び掛けると同時に彼女の肩を揺らす。
僕の行為に彼女は目を覚ませば、ゆっくりと目が開く。
だがその後直ぐに息を荒くさせれば、力ない瞳が僕を見詰める。
「…何…だ、お前…か。お前…は、無事だったか。はは、逃げるのに…失敗…、してな…このざまだ。」
「喋らないで…!今、人を呼んで来るから…!」
罰が当たったかの様に彼女は苦笑しながら言う。
僕は人を呼ぼうとしてその場を立ち上がろうとすれば、その行為は彼女に止められた。
僕の腕を掴み、小さく首を横に振る彼女。
それは最期の合図で、その意味を理解した僕の瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。
「そんな…!そんなの嫌だよ…!」
「…泣くな、男…だろう?」
呆れたような声色で彼女は言う。
ボロボロと泣く僕を弱々しい手付きで僕の頭へと手を伸ばす。
「そうだな…。お前の…為じゃない…が、歌ってやる。」
そう言って彼女は僕がずっと聞きたかったあの歌を歌う。
だがその歌い方は歌う、よりも口ずさむ、の方が正しいかも知れない。
ゆっくりだが歌が、歌詞が、メロディーが僕の中に流れ込む。
そして一通りの歌を歌い終えた彼女は力尽きたのか動かなくなった。
「…!そんな…嫌だよ。ねぇ、起きてよ…。」
* * *
君は笑う。
最期の最期にやりきったような、嬉しそうな笑みを浮かべて。
この戦争の中で、君は笑っている。
誰がこんな戦争を生み出したんだろう。
にんげん?
それとも鉄屑から生まれたぶき?
それとも…?
星は輝く。
こんな薄暗い戦争の中でも星の輝きは絶えない。
僕はあの歌をを心に留めて、願うように僕は彼女が歌った歌を歌った。
...The End
あとがき
この後あとがきを書き換えました(2022.10.10)
歌を歌う女の子と、それを聞く男の子の話。
私が書いた話の中では比較的暗い話だけども、個人的にはそれなりに気に入ってる。
補足を入れれば探検家の青年と遺跡の子孫の娘の話。
作中の遺跡が彼女の先祖が暮らした場所で、歌も先祖が残した歌。
最終的には彼女は亡くなったけど、残された彼がその後どうなったかは読み手の皆様の想像にお任せします。
2010.09.06
修正・加筆:2020.10.10
※バトン内容はこちら※
- 君は笑う
- のら猫の様に気紛れ
- 為じゃない
- にんげん?
- 唄が聴こえる
- うそ!
- 星は輝く
- 屑鉄