俺は棗が好きだった。
いや、違う。過去形は相応しくない。今も――そう、現在進行形で好きなんだ。

「あ、昴!」

振り返れば、廊下の向こうから俺を見つけて走ってくる棗の姿。揺れる髪も、その笑顔もすべてをひっくるめて好きなんだと気付いたのはいつだったか。幼なじみではなく、もっと特別になりたいと思ったのは。

「ちょうど良かった。これ、この間言ってたCD」

今日返してもらったから、とCDを差し出して笑う棗に対して、俺の笑みはきっと少しぎこちないだろう。その笑顔が“幼なじみに向けたもの”を越えることはないと分かってるから。

「あ」

ふいに棗が声を上げ、視線が俺の向こうをいく。花が咲いたように輝いた顔で、知りたくもないのに誰を見つけたか知ってしまった。

「なつ」

「神威先生!」

め、と続く前に俺より小さなその体は、俺の横をすり抜けて軽やかに駆け出した。跳ねる黒髪を思わず目で追って――見て、しまった。
この世で一番見たくない男。その顔と、俺に向けるものとは違う笑顔を向ける棗の姿に、無意識の内に舌打ちをしていた。

「……バカじゃねーの。あんな、浮かれて」

隠しているのだろうに、あんなに嬉しそうにしてどうするのか。
いっそ今この場で――。
嫌な感情がむくりと頭をもたげる。今ここでバラしてやれば、きっとアイツは困るだろう。学校内を揺るがす大問題になる。
開きかけた唇は、何故か途中で止まった。いや、理由は分かってる。

「棗!」

呼びかければ振り返る、その笑顔。曇らせる勇気はまだ無かった。
もっと何かいい方法がある。そう信じこみながら、駆け戻ってくる棗を迎えた。
廊下の向こうに目をやれば、こっちを見ていたアイツが俺の視線に気付いて目を逸らした。鼻で笑いたい衝動を抑え、棗へと視線を戻す。

「ごめん。話の途中だったね」

手を合わせながら微笑む棗。俺が本当に欲しいものとは違うけれど。
それでいい。今はまだ――。


END

あとがき


君と描き合い隊様にて和泉 様から頂きました、昴×棗です。

何度かお話してる時に我が子の棗を気に入って頂けた様でして…!

そしたら絵のお礼で棗絡みでSSを書いて頂ける事になりまして、昴×棗でお話を書いて頂きました!

昴が見せる感情にキュンキュンしてます…!


和泉 様、今回は本当に有り難う御座いました!


2011.08.07/春日 輝

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