放課後の教室――楽しげに笑いながら出て行ったクラスメートを最後に、気が付けばそこには昴しかいなくなっていた。
クラスメートを見送った昴も、鞄を手に立ち上がる。欠伸をしながら教室前方の入口をくぐろうとした時だった。

「うおっ」

「きゃあ!」

 勢いよく駆け込んできた誰かとぶつかりそうになった。見れば、クラスメートの杳だった。

「ごめんね! ってなんだ昴か」

「何だよ、その言い方は」

「別に他意は……じゃなくて! えっと、あーもうこっち!」

ハッと何かに気付いた杳は、昴の腕を掴んで教壇の下へと隠れた。
突然狭い場所へ押し込まれ、昴が文句を言い掛けるも、杳にしーっと口の前で人差し指を立てられて渋々口を噤む。
耳を済ましてみれば、バタバタと足音がして、一緒に杳の名前を呼ぶ声がした。

「ああ……アイツか」

聞き覚えのある声に昴は溜め息をついた。辟易した様子の杳が無言で頷く。

「行った……かな」

足音が遠のいてからしばらくして、杳が呟いた。皆部活に行ったか帰ったかで、廊下は随分と静かだ。

「あ、そういえばごめんね。むりや……り」

ほっと息を吐いた杳が顔を上げ、言葉半ばで口を閉ざした。
目線の先、すぐ近くに昴の顔。互いの息がかかる程の距離だった。理解した瞬間、一気に顔に熱が集まる。

「も、もう平気ね! 出よっ!」

慌てて教壇の下から這い出ようとした杳の手を、昴が掴んで止めた。教壇内へと引き戻す。

「な、何で……」

「またすぐに戻ってくるかもしんねーだろ。もう少し様子見とけ」

 直接明かりの届かないそこは薄暗く、互いの表情は見えない。
溜め息混じりの声に申し訳なさを感じながらも、昴が本心から迷惑がっていないことに杳は気が付いていた。

「……ありがと」

だから、謝る代わりにそう言った。
狭い空間故にどうしても密着する身体。見つからないように黙っていることもあって、早鐘を打つ鼓動が聞こえやしないかと杳は緊張でさらに体を強ばらせた。
遠くで聞こえる笑い声、壁の時計の音。
普段は気にならないそれらが、やけに耳につく。そういった音に意識を向けなければ居られないだけかもしれないが。

「ひゃっ」

「あ、わり」

何かが頬に触れた感触にビクリと体を跳ねさせる。身じろいだ昴の手だと気付いてほっとするも、触れたその部分がやけに熱くて杳は俯いた。

(どう、して……)

こんなにもドキドキしているのだろう。

(昴はただのクラスメートで友達で……それだけ、で)

その筈なのに、さっきからうるさい心臓の音はそれを簡単に否定する。

「……そろそろいいか。ほら、出るぞ」

ぽんと頭を叩かれて顔を上げると、教壇から這い出る昴の背中。追いかけて伸ばしかけた手に気付き、杳はキュッと拳を握った。力なく下ろしてそっと息を吐く。

「あー、体いてえ」

強張った全身を解すように伸びをする昴。未だ教壇の下でうずくまる杳を振り返り、眉をひそめた。

「何してんだよ、ほら」

差し出された手。
取るのに、何故か一瞬躊躇った。
――本当は、知っている。気付いている。
敢えて目隠しをしていた気持ちを突きつけられたようで、戸惑いと気恥ずかしさでまともに顔が見れない。
それでも、平静を装ってその手を取ったのは、まだこの距離を壊したくないからなのだろう。
もどかしくもあるけれど、一番近くて落ち着くこの関係を――。


END

あとがき


和泉 様からTwitterで募集されてたのでそれに参加して頂きましたー。

創作の二次創作をさせて下さい、との事だったのでCPはお任せしたら素敵な昴×杳が…!

丁度この時私自身体調崩してたんですが初めて見た時はテンション上がって体調復活しました(ぇ/その後は降下しましたけども/…)


後普段昴と杳はCPよりコンビとしか見てなかったので、今回書いて頂いて新境地を見付けれて嬉しかったです!

もしかしたら今度私もこの二人はコンビよりCPとして扱う気がします(笑)


和泉 様、今回は本当に有り難う御座いました!


2012.04.24/春日 輝

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